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東京地方裁判所八王子支部 平成3年(ワ)2039号・平4年(ワ)683号 判決

原告

甲野一郎(仮名)(X)

右訴訟代理人弁護士

村田光男

被告

福生市(Y)

右代表者市長

石川彌八郎

右指定代理人

山崎雄大

内藤勝義

被告

三浦恒雄

谷田博幸

髙山利文

右被告四名訴訟代理人弁護士

山本政敏

吉岡毅

河野敬

事実及び理由

第三 当裁判所の判断

一  被告三浦、同谷田、同髙山の個人責任

被告三浦、同谷田、同髙山がいずれも公務員であることは、当事者間に争いがないところ、原告は、右被告らの、公立学校内の部活動に関連した職務行為(災害共済給付金申請の際の報告行為を含む。)、即ち、公権力の行使にあたる公務員の職務行為について、その安全配慮義務ないしは監督義務違反等を理由に、個人としての不法行為責任をそれぞれ問うものであることは、主張自体から明らかである。そうすると、右主張の場合、公務員個人が不法行為責任を負わないものと解されるから、原告の被告三浦、同谷田、同髙山に対する請求には理由がない。

二  被告福生市の責任

1  本件暴行について

(一)  被告三浦、同谷田の安全配慮義務

学校側は、部活動において、生徒を指導監督し、事故の発生を未然に防止すべき一般的な注意義務を負っているが、部活動が生徒の自主性をできるだけ尊重すべきものであることに鑑みれば、具体的な事件の発生が予見可能な特段の事情がある場合に限り、部活動に常時立ち会うなどして生徒を監視、指導して、生徒の安全に配慮する義務を負うものと考えられる。

そこで、以下に、かかる予見可能性の有無を、被告三浦、同谷田につき検討する。

(1) 本件暴行前の状況

イ 本件暴行に至るまでに、Aは、平成元年三、四月に喫煙により二回、中学一年生時に万引きにより、補導されたことがあり、Bは、昭和六三年に不良交友、中学二年生時にオートバイに乗ったことにより補導されたことがあったが、共に、暴行・傷害事件による補導歴はなかった。

(〔証拠略〕)

ロ 平成元年三月まで、突っ張りグループによる教師への反抗、放課後の部活動への妨害、原告ら生徒に対する暴行等は散発的に起きており、平成元年四月当時、本件中学校三年生の男子生徒約一六名は、グループを形成し、授業を抜け出して、喫煙をしたり、教師に注意されると大声を出すなどして反抗的な態度を示し、放課後には部活動の邪魔をして困らせていたことがあった(以下、同グループを「突っ張りグループ」という。)。Aは、突っ張りグループの番長格であり、Bも突っ張りグループに所属し、右両名は、変形学生服を着用し、頭髪を染めるなど、奇抜な身なりをしていた。被告三浦、同谷田は、AとBの右言動等を、直接間接承知していた。

(〔証拠略〕)

ハ 本件中学校の剣道部は、昭和六三年度は、剣道の経験のあった教師がいなかったため、剣道の経験のない教師二名が顧問となり、当時剣道部に在籍していた剣道部員が卒業した後は剣道部を廃部とする方針とし、一年生の新入部員は、剣道の経験のある者に限り入部させることになった。被告髙山は、剣道の経験(二段)があったため、顧問教師の許可を得て、剣道部の練習に参加し(昭和六三年度は年に二〇回程度)、時には事実上初心者の指導をしたり、対外試合の引率をしたことがあったが、剣道部の運営に関わることはなかった。

平成元年度は、剣道の経験(初段)のあった被告谷田が、剣道部の顧問になった。被告三浦は、剣道部の以上の状況を承知していた。被告谷田が剣道部の顧問になってからの部活動の日は、月、水、木、金曜日と定められ、同年四月に剣道部の活動が行われた日は、平成元年四月一〇日、同月一二日、同月一七日、同月二〇日、同月二一日、同月二四日、同月二六日、同月二七日、同月二八日だった。被告谷山は、同月一〇日に同年度の初めての剣道部の活動で、部員に挨拶をして、練習に立ち会い、同月一七日の練習にも立ち会ったが、その他の日の練習には特に立ち会わなかった。被告髙山は、平成元年度になってからは、同年四月二七日の練習にのみ参加した。

(〔証拠略〕)

ニ ところで、平成元年四月に入ってから本件暴行に至るまでの、本件中学校の三年生による原告らに対する日常的な暴行等の行為として、生徒Aが、学校内で原告と通りすがりに急に手を広げ、原告の顔面に手をぶつけたこと、生徒B、C、D、Eが段ボールで原告や同級生の頭を殴ったこと、生徒Fが学生服を振り回して原告の背中、顔に当てたこと、生徒Gが、会話中の原告と同級生の頭をぶつけ、原告が「痛い。」というと、「逆らうのか。」と言って頭、体を連打したこと、生徒D、Hが、外の水道につないであったホースを使用して、原告らがいる教室内に放水したこと、同月二二日、生徒Iが、原告に「ちょっと来い。」と言い、原告が話し中だったので断ると、殴ってきたこと、原告の靴を何者かが無断で使用して放置していたことがあった。右A、D、E、Hは突っ張りグループの一員だった。また、新一年生約三〇名が在校生に招集をかけられたが、行かなかったために新一年生の一名が代表してリンチを受けたことがあった。

(〔証拠略〕)

ホ このような中、平成元年四月一八日、本件中学校の三年生の男子生徒七〇名(A、Bも参加していた。)は、卒業生から、喧嘩に加勢するよう命令され、その際、本件中学校の体育館のステージの下に収納してあった剣道部の竹刀約三〇本、木刀約一二本を持ち出し、警察官が出動するという竹刀持ち出し事件が発生した。同月一九日、持ち出されたもののうち、竹刀約二〇本、木刀約八本が回収され、本件中学校の職員用ロッカーの中に収納された。なお、剣道部員三年生のC(以下「C」という。)が突っ張りグループの下働きとして、竹刀持ち出し事件に関わった。被告三浦、同谷田は、竹刀持ち出し事件について、発生後間もなく右の概要を聞き及んだ。

そこで、竹刀持ち出し事件以降、被告谷田が、剣道部の竹刀と木刀を保管し、練習の都度剣道部員に渡すことになったが、さらに、同月二〇日頃、部長のKや原告らは不安を覚え、被告谷田に対し、これからは部活動に立ち会ってもらうよう要請したところ、同被告もできるだけ立ち会う旨答え、また、顧問の立ち会いがない時は竹刀を使っての練習はしないことなども話し合われた。

(〔証拠略〕)

(2) 本件暴行時の状況

イ 平成元年四月二七日の放課後、本件中学校の体育館において、一〇名余りの剣道部員が練習をしており、他に、柔道部、卓球部、バレー部が練習をしていた。

原告は、剣道部員で三年生だったK(以下「K」という。)とともに、仮入部中の一年生を指導し、被告髙山は、同日午後四時一〇分頃から部活動に参加して、Kに指導されていた一年生に、竹刀の持ち方、素振りの助言等をした。被告谷田は、当日、剣道部の練習前に、部員に竹刀を渡したが、職員会議のため、剣道部の練習には立ち会わなかった。

ロ AとBは、同日午後四時過ぎに体育館に行き、卓球部の練習を七、八分、柔道部の練習を約一〇分邪魔した後、剣道部の練習を邪魔しに向かった。AとBは、初めは、Kの方に行き、それぞれ一年生から無理に竹刀を借り上げたうえ、Kに素振りなどを指導されていた一年生の剣道部員に対し、竹刀で股間を軽く突くなどしていたが、Kの抗議を受け、同様に一年生に素振りなどを指導していた原告の方に行った。

同日午後四時二〇分頃、Bは、原告に「一回打たせてくれ。」と言って、竹刀で、原告が構えた竹刀に目掛けて正面から打つと、ほぼ同時に、原告の後方にいたAが、竹刀で防具を付けていない原告の胴付近を打ち、Bは、驚いて振り返った原告をさらに竹刀で面(頭)と胴を打った。

AとBは、原告を打った後、原告から少し離れたが、原告が、「痛えな。」などと言うと、Bが、Aに対し、原告が文句を言っていると告げ、Aは、原告の方へ戻り、「生意気だ。」と言って、原告の顔面を右手拳で殴打し、続いて、Bは、原告の胸ぐらをつかんで押し倒し、Aは、倒れた原告に対し、脇腹を蹴り、顔面を殴るといった暴行を続けた。被告髙山は、止めに入ろうとしたが、Bが立ちふさがって両手を広げ、被告髙山の進路を塞ぎ、「てめえは何にもできねえんだからやめとけ。」と大声で叫んだ。被告髙山は、Kに、教師を呼ぶように伝えた。

ハ 被告谷田は、同日午後四時二五分頃、Kから連絡を受けて、直ちに職員室に行き、他の三年生の担任の教師に連絡してから体育館に行った。

同日午後四時三〇分頃、暴行が終わって、AとBが、Cに、「甲野は生意気だから何とかしろ。」などと話していたとき、被告谷田らが駆けつけた。教師は、Aに教室で待機するよう言ったが、Bは、現場から逃げていた。

ニ 同日午後六時四〇分頃、Aの母、原告の母が本件中学校に来て、校長室で事情聴取と話し合いを行い、被告三浦は、Aの母に厳重に注意した。

(〔証拠略〕)

(3) 原告の傷害

原告は、本件暴行を受けた当日、大聖病院で応急治療を受け、翌日以降、国立立川病院の脳神経外科、歯科等で診察を受け、左側顎関節頭骨折、頸椎捻挫、筋々膜性頸部痛、頭部顔面外傷と診断された。左側顎関節頭骨折については、同年七月三日、治癒と診断されたが、X線上関節頭に偏位が残存し、顎運動時の顎の偏位が見られこれらは一種の後遺症と考えられ、将来にわたり顎関節疾患を発生する可能性も否定できないと診断された。

更に、原告は、頸、背部に痛みと異常があったため、平成元年九月一三日から平成五年八月一九日まで、整体指圧治療を受けた。

(〔証拠略〕)

(4) 本件暴行後の経過

本件暴行の後、Aは、平成元年六月二七日、教護院に転校し、平成元年一二月二八日、東京家庭裁判所八王子支部において、保護的措置を理由に審判不開始決定がされた。なお、Aは、平成四年三月一四日、交通事故のため死亡した。

Bは、平成二年七月二〇日、同庁において、保護的措置を理由に不処分とされた。

(〔証拠略〕)

その後、分離前相被告だったB及びAの承継人並びに同人らの親権者ら(当時)については、平成八年一二月九日の本件第二八回口頭弁論期日において、原告の主張する暴行の事実を認めて謝罪し、後遺症に対する慰謝料の一部として三〇〇万円を連帯して支払う等の内容の和解が成立し、原告は、右和解金を受領した。

(5) 以上に認定の、主に本件暴行前の状況及び本件暴行時における状況に関する各事実を総合して考察すれば、本件暴行前の平成元年三月までの状況は、突っ張りグループによる教師への反抗、放課後の部活動への妨害、原告ら生徒に対する暴行等は散発的に起きた程度であったが、同年四月に入ると、突っ張りグループの新三年生により、原告らに対する日常的な暴行等を始め、これらが頻発し始めていたところ、平成元年四月一八日AとBを含む三年生男子生徒七〇名による喧嘩の道具のための、剣道部からの竹刀持ち出し行為が発生するに至り、以後、剣道部としては、顧問の被告谷田が竹刀等を自ら管理することとし、原告及び部長のKもこの頃、不安を覚えて、被告谷田に対し、部活動にできるだけ立ち会うよう要請していたのであるから、これに、それまでの日頃の突っ張りグループないしAとBの前記言動を併せ考えれば、突っ張りグループないしAとBが剣道部の部活動時に原告や他の剣道部員に対して、竹刀等の取り上げ等の部活動妨害行為、ひいては、それに関連しての暴行事件等が具体的に生じかねない特段の事情があったものということができ、しかも、前記認定のとおり、被告三浦及び同谷田において、少なくとも、竹刀持ち出し事件及びA・Bの日頃の言動をある程度承知していた以上、暴行事件の発生について、同被告らに予見可能性があったといわざるを得ない。

そうだとすれば、同被告らは、部活動に常時立ち会うあるいは立ち会いを指示するなどして生徒を監視、指導し、生徒に対する安全配慮義務を負うものということができる。

(二)  右のとおり、被告三浦、同谷田に右安全配慮義務があるところ、同被告らは、剣道部の部活動を見回る、あるいは部活動に立ち会う、又は、他の教職員をして立ち会うべく指示するなどして、生徒を監視指導するなど、事故発生を未然に防止すべき措置をとらなかったことは、先に認定したところから明らかであるから、同被告らは、右安全配慮義務に違反した過失があり、したがって、同被告らの部活動に関連する職務行為に違法があるというべきである。

(三)  したがって、被告福生市は、本件暴行につき、国賠法一条に基づく損害賠償責任を負う。

2  虚偽報告について

被告三浦は、本件事故に関する災害共済給付金申請に際し、平成元年七月一五日付で災害報告書を作成し、日本体育学校健康センターに提出したが、同書面の「災害発生の状況」の欄には、以下のとおり記載されていた。

「剣道部の活動中のけが。体育館で活動中の他のクラブの生徒が、剣道部の練習を見ていて、おもしろそうなので、竹刀で打たせてほしいと言ってきた。本生徒が断ったところ断り方が気にいらないと口論になり、殴り合いの喧嘩になった。本生徒は顔面に数発パンチを受け、顎関節部を骨折するに至った。」

(〔証拠略〕)

前記認定事実に照らせば、右記載は、「殴り合いの喧嘩になった」という記載など、原告の主張どおり、事実に反する部分があると認められる。

なお、被告三浦は、福生市教育委員会教育長に対し、「管理下事故発生等の状況について(報告)」と題する平成元年五月一五日付の書面を提出したが、右報告書には、当時同被告の知り得た情報の範囲内において、特に事実に反するような記載はなかった。

(〔証拠略〕)

ところで、災害報告書は、学校で起きた事故について、災害共済給付を受給するための資料として作成されるものであることが認められる(被告三浦)。そうすると、災害報告書は、原告に対する教育上の資料、進学・就職に関する判断材料として作成されるものではなく、また、災害報告書の記載内容は、当然に外部に公開される性質のものではないということができる。

とすれば、災害報告書に事実に反する記載がされたとしても、原告にとって、不愉快なことであるのはいうまでもないが、同被告の災害報告書作成・提出に、その名誉を毀損するなど、法的な意味での権利侵害ないし違法があったとはいえず、原告の主張は理由がない。

三  損害

1  逸失利益

〔証拠略〕によれば、原告には、咀嚼機能の障害、口の開閉時の顎のずれ、骨折部位の疼痛等が後遺症として残ったことが認められる。原告の後遺症の部位、程度、性別、年齢等に鑑みれば、原告の労働能力喪失率は、二〇パーセントをもって相当とする。

原告は、平成九年三月に大学を卒業し、同年四月から就職する見込みであるから(〔証拠略〕)、賃金センサス平成三年新大卒年収の金六四二万八八〇〇円を基礎として、就労可能時を二二歳から六七歳としてライプニッツ方式により中間利息を控除すると、原告の逸失利益現価は、金一五四六万七九四九円となる。

(ライプニッツ係数の計算式)

一八・四九三四(一四歳から六七歳までの五三年のライプニッツ係数)-六・四六三二(一四歳から二二歳までの八年のライプニッツ係数)=一二・〇三〇二

(逸失利益の計算式)

六四二万八八〇〇×〇・二×一二・〇三〇二=一五四六万七九四九(円)

2  慰謝料

(一)  後遺症慰謝料

前記後遺症によって原告に生じた精神的苦痛を慰謝するには、前記被告三浦、同谷田の職務行為における過失の態様、違法の程度等、本件における一切の事情を考慮し、金四六〇万円をもって相当とする。

しかし、前記のとおり、原告が分離前相被告らから後遺症慰謝料の一部として金三〇〇万円を受領したことは、原告の自認するところであるから、同額を控除し、残額は一六〇万円となる。

(二)  通院慰謝料

〔証拠略〕によれば、原告は、平成元年四月二七日から同年九月二四日までの約五か月間病院に通院し、同年四月二七日から平成五年八月一九日までの約五二か月間整体療院に通院したことが認められる。

右通院治療によって原告に生じた精神的苦痛を慰謝するには、右同様の一切の事情を考慮し、金一五〇万円をもって相当とする。

3  治療費、交通費

〔証拠略〕によれば、原告は、本件暴行による傷害に対する治療費として金一二万五七九〇円、通院交通費として金一三万五四三〇円の支出をしたことが認められる。

4  弁護士費用

本件認容額の約一割相当額である金二〇〇万円をもって相当とする。

5  以上の損害額の合計は、二〇八二万九一六九円である。

6  遅延損害金

被告福生市は、原告の被った右損害額のうち、弁護士費用を除く金一八八二万九一六九円に対しては違法行為時の平成元年四月二七日から、弁護士費用の金二〇〇万円に対しては違法行為の後である平成四年五月二日から、各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払い義務がある。

四  よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 樋口直 裁判官 八木貴美子 酒井良介)

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